独創性に富んだキーウィー魂(マクリーンえり子)
キーウィー(ニュージーランド人)は自分でなんでもやる国民(Do it yourself)といわれているが、確かにこの国では自宅の改造から自家用車の修理まで、できることはすべて自分たちでやってしまうのが一般的だ。私の住む人口4000人の町でも自家用飛行機やヨットや家を自分で作ってしまった人を何人か知っている。
そんな国民性なので、これまでもアッと驚くような手作りの記録や発明が成されている。
アンソニー・ホプキンス主演の「世界最速のインディアン」(2005年)という映画をご覧になったことがあるだろうか。自分で改造したオートバイで世界のスピード記録に挑戦したバート・モンロー氏(1899~1978年)というキーウィー・ガイ(ニュージーランド男)の話だ。彼はニュージーランドの南島のインバーカーギルという町に住んでいたが、21歳の時に買った600ccのIndian Scout を生涯改造し続けた。そして63歳になった1962年には850ccに改造した、赤い弾丸型のカバーを付けた愛車で、アメリカ・ユタ州のソルトレイク、ボンネビル・ソルトフラッツ(塩原自動車スピード試験場)でのスピード記録に挑戦し、その時には時速178.971マイル(時速288キロ)という最高スピード記録を出している。そしてその後も彼は愛車の改造をし続け、950ccまでに改造したオートバイで1967年まで記録を更新し続けた。
自宅の物置で、気張らずにひょうひょうとオートバイに取り組んだバートは典型的なニュージーランド人と言えるだろう。
最近ではクライストチャーチの発明家グレン・マーティン氏が1981年から取り組んできた個人用ジェット機「マーティン・ジェット・パック」が完成し、脚光を浴びている。
これは自分の体に小型ジェット機を着装して空を飛べるというもので、まさにドラえもんのタケコプターのジェット機版といったところだ。ただジェットパックそのものはとても重いので使用できる人の体重制限は63.5キロ以上108.9キロ以下となっている。また今のところこのジェット機の最高時速は100キロまで、1回の飛行距離は50キロまでだそうだ。この発明は、来年早々から正式に最新飛行機器としてニュージーランド国内でフライトを公開し、その後すぐにオーストラリアに進出する予定だ。発明、開発したマーティン氏は、いつかこれで人々がラッシュアワーの渋滞をさけて、通勤する日が来ることを夢見ているそうだ。
次は手作りの機関車の話だが、私の住むコロマンデル半島にはあの絵本の機関車トーマスのようなトロッコ列車を自分の敷地内の森林に走らせている陶芸家バリー・ブリッケル氏がいる。彼は20年以上をかけて敷地内に手作りの2階建て鉄橋やトンネルを作り、ついに近年3キロの路線を完成させた。(Driving Creek Railway & Potteries)
今では毎年3万人もの観光客が、この森林列車に乗りにやってくるが、この陶芸家にとってこれはお金もうけのためのビジネスではない。この列車からの収入はその運行と隣接する陶芸工房を運営するのに必要な費用をまかなった後、残りの利益はすべて彼の行っている森林再生プロジェクトの資金にまわされる。過去に牧草地拡大のために森が焼かれ、伐採され、一時絶滅寸前となり、現在では国の保護木とされている「カウリ」の木を植えるプロジェクトだ。
彼は樹齢1000年以上も生きる天然のカウリの森を再びこのニュージーランドの地よみがえらせようとしているのだが、現在までにこのプロジェクトによって1万株ものカウリの苗が植林されたという。
そして最後に私の住む町フィティアンガにも独創的な人がいたのを思い出した。わが家の隣人でもあるアラン・ホッピン氏。彼は20数年前にはこの町でキャンプ場をしていたのだが、そこの地下に温泉源があることがわかった。そこで温泉を掘り当て、以来、20年かけて独創的な熱帯植物園とそれにマッチした洞窟(どうくつ)や火山をつくり、その自然の景観の中に流れる温泉プールがゆったりと広がっているという、素敵な温泉場「秘境の湯」(The Lost Spring)を昨年、完成させた。
庭造りにはアランの独創性があふれ、石一つ一つにも彼の思いがこもっている素晴らしい出来栄えだ。私財を投じて20年取り組んできたものだが、今では町の名所となっている。
このように損得なしで自分の夢を追求するキーウィー魂はニュージーランドの豊かな自然環境の中でこれからも育まれていくことだろう。(フィティアンガ在住)
【写真説明】1) 新発明の小型ジェット機で空を飛べば「渋滞も問題なし」(マーティン・エアクラフト社提供)
2) 20年かけて個人の敷地内に整備された森林列車に乗った観光客は、陽気な掛け声を上げる(Driving Creek Railway & Potteries提供)
3) 温泉を掘り当て、20年かけて整備した「秘境の湯」。亜熱帯の木々の間にゆったり流れる温泉プール
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